遺言書は、自分の財産を誰にどのように渡すかを決める、大切な意思表示の手段です。
正しく作成された遺言書には、法的な効力があり、相続の場面で大きな役割を果たします。
しかし、遺言書に書けば何でも叶うわけではなく、効力が及ばない内容や、ルールを守らなかったために無効とされるケースもあります。
この記事では、遺言書にどのような効力があるのか、どこまでのことができるのか、逆にできないことや無効になるパターンなどを、わかりやすく解説します。
ご自身の思いを正確に伝えるために、そして大切な家族に負担をかけないために、遺言書の効力について一度確認しておきましょう。
遺言書の効力
正しい手順で作られた遺言書には、法律上の効力が認められており、残された家族や関係者はその内容に従って財産を分けることになります。
ただし、遺言書に書けば何でも実現できるわけではありません。遺言書によってできることは、法律で決められた「法定遺言事項」に限られます。ここでは、代表的な項目をわかりやすく紹介します。
誰にどの財産を相続させるかを指定できる
たとえば「長男に自宅を、次男に預金を相続させる」といった形で、具体的に財産の分け方を指示することができます。また、法定相続人でない人──たとえば内縁の配偶者や孫、介護してくれた親戚などにも「遺贈」として財産を渡すことが可能です。
相続人を除外することができる(相続人の廃除)
故人に対して虐待や重大な迷惑行為を行った相続人がいる場合、遺言書で「この人には相続させない」という意思を示すことができます。この場合は、遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行い、最終的に裁判所の判断によりその相続人の権利が取り消されます。
遺産の分け方や分割の時期を決められる
たとえば「土地は○○に、預金は△△に」といった分け方を細かく決めることができます。また、相続開始後しばらくは財産を分けないようにする「遺産分割の禁止」を一定期間(最大5年間)設定することもできます。
ただし、税金の申告や不動産登記には期限があります。たとえ遺産分割を禁止しても、その期限が延長されるわけではありません。期限内に仮の申告や登記を行う必要があります。
未成年の子どもの後見人を指定できる
もし未成年の子どもを残して亡くなる場合、遺言書で後見人を指定しておけば、その人が代わりに子どもを育て、財産を管理することができます。信頼できる人を選ぶことが重要です。
その他、できることの例
その他、以下のようなこともできます。
- 遺言執行者の指定:遺言書の内容を実現するために動く人(たとえば弁護士など)を選べます。
- 子どもの認知:婚姻外の子どもを法的に自分の子どもとして認めることができます。
- 生命保険の受取人の変更:保険証券の番号などを明記すれば、遺言書で受取人を変えることができます。
- 遺産の寄付:遺産の一部または全部を団体や公共のために寄付することも可能です。
遺言書の効力が及ばないもの(できないこと)
遺言書は大切な意思表示の手段ですが、すべての希望を法律で実現できるわけではありません。ここでは、たとえ遺言書に書いても「効力が及ばないもの」つまり法律上実行できない内容について紹介します。
結婚・離婚・養子縁組の指示
「Aと結婚してほしい」「Bと離婚しなさい」といった内容は、遺言書で書いても法的には意味がありません。結婚や離婚、養子縁組は、本人たちの自由意思によるものだからです。遺言書では、これらを強制することはできません。
葬儀のやり方や納骨場所の指定
「こういう葬式をしてほしい」「このお墓に入れてほしい」といった内容は、遺言書に書くことはできますが、法的な拘束力はありません。あくまで「希望」として残された家族に伝えるものになります。
臓器提供や献体の希望
これも遺言書で意思表示することはできますが、医療現場で使われる書類ではないため、確実に実現されるとは限りません。臓器提供の意思は別途、専用の意思表示カードなどで示しておくのが望ましいです。
家族へのお願いごとやメッセージ
たとえば「仲良く暮らしてください」「家を大切にしてください」などの希望や気持ちを記すことは可能ですが、これらも法律上の効力はありません。いわゆる「付言事項」として扱われ、実行の義務はないものとされます。
遺言書が無効(効力を失う)になるケース
遺言書は、きちんとした形式で作られていないと、法的な効力を持たなくなってしまいます。せっかく気持ちをこめて書いても、無効と判断されてしまっては意味がありません。ここでは、遺言書が「無効」になる代表的なケースについて、具体的に説明します。
日付が書かれていない
遺言書には、作成した日付をはっきりと書く必要があります。
たとえば「令和6年5月18日」や「2025年5月18日」といったように、年月日を明記することが求められます。
なぜ日付が大切かというと、複数の遺言書がある場合に、どれが最新かを判断するためです。日付がなければ、その遺言書がいつ書かれたものか分からないため、無効とされる可能性が高くなります。
パソコンで作ったもの
自分で書く「自筆証書遺言」では、パソコンやワープロで印刷したものは使えません。
全文を自分の手で書かないと、法律上の効力は認められません。
これは、本人が本当に自分で書いたかどうかを確認できるようにするためです。改ざんやなりすましを防ぐためにも、手書きであることが重要です。
本人以外が書いたもの
遺言書は、遺言を残す人が、自分自身の意思で書くことが基本です。
たとえ家族や専門家であっても、本人以外が書いた場合は無効です。
代筆や代理人による作成では、その内容が本人の意思なのかどうか確認できないため、法的には認められません。必ず本人が自らの手で作成しましょう。
共同で作ったもの
遺言書を夫婦や親子で「一緒に」作成することはできません。
たとえば、夫婦が1枚の紙にそれぞれの希望を書いた場合、その遺言書は無効となります。
これは、一方の意思がもう一方の内容に影響されている可能性があるためです。遺言書はあくまで「一人ひとりが別々に」作成しなければなりません。
署名と捺印がない
遺言書の最後には、本人の署名(名前を書くこと)と押印(印鑑を押すこと)が必要です。
署名も捺印もなければ、その遺言書は本人のものか確認できず、無効になります。
使用する印鑑に決まりはありませんが、なるべく実印を使うと信頼性が高くなります。実印が難しい場合でも、少なくとも本人の普段使いの印鑑を使うのが望ましいです。
15歳未満の人が作成した場合
遺言書は、民法のルールにより「15歳以上」の人でなければ作成できません。
たとえ意思がしっかりしていたとしても、15歳未満の人の遺言書は法律上無効となります。
これは昔からの法律の考え方が残っているためで、現在でも変わっていません。
判断能力がない状態で作成した場合
たとえば認知症などにより、内容を正しく理解できない状態で遺言書を作った場合、その遺言書は無効になる可能性があります。
法律では、遺言を書くときに「遺言能力(自分の意思を判断できる力)」があることが必要とされています。
ただし、軽度の認知症や一時的な回復がある場合などは、遺言が有効と判断されることもあります。医師の診断書を残すなど、証拠を用意しておくと安心です。
修正や加筆がルールどおりでない
自筆証書遺言では、あとから内容を直すときにも注意が必要です。
二重線で消し、訂正印を押し、正しい内容を明記するという決まったルールを守らないと、その部分や全体が無効とされることがあります。
たとえば、修正した部分を黒く塗りつぶしてしまったり、訂正印を押していなかったりすると、正しい内容が分からなくなってしまいます。法律に決められた手順で修正することがとても重要です。
弁護士に相談
遺言書は、人生の最後に自分の気持ちを残す大切な書類です。しかし、書き方を間違えると無効になったり、家族の間でトラブルが起きたりするおそれがあります。
ここでは、「これから遺言書を作りたい人」と「内容に疑問を感じた人」の2つのケースに分けて、弁護士に相談すべきタイミングや理由を説明します。
無効にならない遺言書を作成したい
遺言書をせっかく作っても、あとから無効だと判断されてしまえば、希望したとおりの相続は実現できません。
弁護士に依頼すれば、形式的なミスを防げるだけでなく、将来の争いを防ぐための工夫(たとえば遺言執行者の指定や付言事項の活用)もできます。公正証書遺言の作成サポートも含め、全面的にバックアップしてくれます。
おかしいと思った遺言書が出てきた場合
遺言書の内容に違和感を覚えた場合は、無効となる可能性もあります。以下のような点がある場合、弁護士に相談してください。
- 認知症と診断されたあとに作成された遺言書
- 明らかに本人の筆跡ではない
- 内容が不自然で、一部の相続人だけに有利
- パソコンで作られていたり、署名や日付がない
このような場合は、「遺言無効確認の訴え」という法的手段によって、家庭裁判所に判断を求めることができます。ただし、無効を主張するためには、医学的な証拠や遺言書の分析など、専門的な対応が必要になります。
そのため、相続に詳しい弁護士に早めに相談することが重要です。